CO2分離濃縮技術開発

 地球温暖化の一因とされているCO2を大気に放出せずに効率的に回収する技術の開発が求められています。ですが、排出されるCO2の濃度は必ずしも高いわけではありません。そのため、排出されたCO2とのその他のガスを分離し、濃縮する必要があります。本研究室では、CO2の分離回収にむけた吸着プロセスの開発に取り組んでいます。

温度スイング吸着によるCO2の濃縮の例

ガス給湯器や焼却炉など、CO2の排出源は「排熱源」でもある場合が多いです。高温の排熱は数多くの使い道がありますが、100℃以下の低温排熱非常に多く存在するにもかかわらず有効活用されていないのが現状です。そこで、本研究室では、100℃以下の低温排熱を利用した小型CO2排出源からのCO2回収技術開発に取り組んでいます。CO2を含むガスを吸着材に吸着させると、ガスにはCO2が含まれなくなりますが、時間が経過すると吸着材は吸着破過に至ってしまします。そのため、吸着剤を加熱して吸着材からCO2を脱離(脱着)させる工程に移します。この脱離ガスは吸着剤に含まれていたCO2が多く含まれているので、結果的にCO2を濃縮することができます。本プロセスでは吸着と脱着のプロセスを周期的に繰り返す必要があるため、サイクル操作に適した運転条件や吸着反応器の設計に取り組んでいます。

バイオガス分離のイメージ

また、上記と同じように排熱を利用してCO2を吸着させる仕組みを応用し、バイオガスの濃縮技術にも取り組んでいます。バイオマスのメタン発酵などから得られるバイオガスにはメタン(60-70%)の他にCO2(30-40%)が多く含まれています。燃料としてメタンを使用するためには、メタンの濃縮(分離)が必要になります。そこで本研究室では、バイオガスに含まれるCO2を吸着除去することにより、メタン濃度を高める取り組みも行っています。このプロセスでも吸着材はCO2を吸着し、低温排熱などを用いてCO2を脱着することを想定しています。このプロセスでは、吸着工程でCO2を吸着して、メタンは吸着しないような材料の選定やそれに適したプロセスの開発、メタンとCO2の同時濃縮に向けた脱着空気削減プロセスの構築などに取り組んでいます。

高度ガス分離技術の開発

圧力スイングによる同位体分離のイメージと圧力スイングプロセスの一例

吸着の技術を利用して極微量のガス成分の分離にも取り組んでいます。例えば、核融合燃料や原子核反応の中性子減速材などに使用される重水素の天然存在比は0.015%程度と極微量です。また、水素と重水素は同位体なので化学的性質がほぼ同じなので、分離が困難とされています。本研究室では、圧力スイング法を用いて同位体水素を吸着分離することにチャレンジしています。上述の2つの技術では、低温で吸着・高温で脱着を行っていましたが、圧力スイング法は、高圧で吸着、低圧で脱着を行うプロセスです。同位体の吸着分離に関しては未だに明らかとなっていない部分が多分にあるため、基礎的な吸着挙動の解明とそれに基づいた圧力スイング吸着プロセスの構築に取り組んでいます。

ゼロエミッション脱硫フィルターの開発

 二酸化硫黄(SO2)などの硫黄酸化物(SOx)は石油・石炭などの化石燃料を燃焼すると発生します。排出されたSOxは、酸性雨の要因になったり、人体へ悪影響を及ぼしたりする環境汚染物質です。また、PM2.5の主要成分であることも知られています。SOxの排出源としては、火力発電所(石炭・石油)・ディーゼル自動車・船舶・発電機などが挙げられます。このうち大型施設である火力発電所などは厳しい排出総量規制を満たすため、湿式の大型脱硫設備が導入されています。また、自動車では、燃料の硫黄分に対して厳しい規制をかけています。したがって、これらのような排出源に対しては対策がしっかりとなされています。一方で、小型排出源である船舶、農耕機、小型ディーゼル発電機などには未だ規制が行われていないこと、小型の脱硫システムがないことなどから対応が遅れている言わざるを得ません。このような背景のもと本研究室では、小型排出源に適用可能な小型脱硫フィルターの開発に取り組んでいます。

硫黄除去フィルターと硫黄循環の一例

除去した硫黄分は、化学薬品、2時電池材料、工業製品など様々な場面で再使用することを想定しています。そのため、小型で硫黄を大量に貯蔵できる材料が必要となります。そのような脱硫材料として本研究室ではMnO2に注目しています。MnO2自体は微粒子ですが、このまま使用しても内部まで硫黄が拡散せずに材料利用効率が向上しません。そこで本研究室ではMnO2を小型ハニカム形状に成形して脱硫フィルターを作製しています。この際、流路の大きやフィルター厚さ、基材壁・MnO2層の厚さなど数多くのパラメーターが存在しますが、これらのパラメーターを最適化しながら、さらなる小型化・高性能化に取り組んでいます。

プラズマを用いた脱硫フィルターのイメージ

 さらにSOxだけでなく、同様に排ガスに含まれうるNOxの除去を狙って、大気圧非平衡プラズマを用いた脱硫プロセスの開発にも取り組んでいます。大気圧非平衡プラズマとはガスの温度は常温で、電子温度だけが非常に高温になる状態です。この技術と既存の脱硫技術を併用して用いることにより、SOxだけでなくNOxの除去も可能になるのではと期待しています。現在は、プロセス中で何が起きているかを明らかにするために、分光や解析による現象解明に取り組んでいます。